ネットでテレビを見るということ

テレビをネットで見ることができても、どうということはないよね。実際にできることはTVチューナーカードをPCに挿しているのと変わらないんじゃないかなあ。と、昔は思っていたが、最近は「意味があろうが無かろうが、変われないこと自体がまずい」と思うようになってきた。

ネット動画コンテンツをどう増やすか - 雑種路線でいこう
昔は僕もネットにコンテンツを出さないテレビ局は時代に逆行しているとか思っていたが、改めて再利用できるかと見直してみると、既に再利用されているコンテンツを除くとテレビという仕掛けを前提にコンテンツそのものが組み立てられていることに気付く。それをただネットに持ってくるとして、まあロケフリとかタイムマシン的な仕掛けはそれなりにニーズがあるだろうけれども、それってテレビをネットでみているだけで、必ずしもネットに合ったコンテンツじゃないし。

そうなんだけれど、それでもテレビをネットで見られることに意味があるのだと思う。今すぐ役立つという意味ではなくて、ネットで見ることが当たり前になったときに、その当たり前をベースとして次のイノベーションが起きてくるのではないだろうか。
そんな起こるかどうかも分からんようなイノベーションのために今の美味しいビジネスモデルを危機にさらすなんてできないよ、と放送局は言うのだろう。イノベーションのジレンマというやつかもしれない。けれども、そうやって日本の中で色々なチャンスを見て見ぬ振りをしてやりすごしている内に、「外」で変化が起こるだろう。
フランスでは、freeという新興ISPサービスが月額30ユーロ程度でADSLのトリプルプレイサービスを提供しており、既に400万の加入者があるそうだ。オプション契約なしに視聴できる200以上のチャンネルの中には、キー局のほかに地方ローカル局、中東など海外からの放送などが視聴でき、しかもWeb上でリアルタイムに視聴率が表示されているという。

2007-08-05 - 新・ななめ読み Sustainable Diary
これだけの多様な地域や国のテレビが視聴できるということは、要するにフランスのテレビ市場ではすでにグローバルな競争が展開されているということになる。しかも恐ろしいことに、視聴率が時々刻々と正確なデータになって公表されてしまうのだ。(http://guidebox.free.fr/ の左上にあるTop 15 Liveを参照)

番組を録画して、外部のPCからVLCメディアプレーヤを使って視聴できるようだから、おそらくDRMも、あったとしても大したことは無いのだろう。ネットで探すと、Eee PC + VLCでFreeBoxの動画を視聴、みたいな記事がたくさん出てくる。

パリ6区サンジェルマン村 | ■FreeBoxHDで遊んでみた(フランス)

こうやって、現在の技術水準を素直に取り入れたいろいろな新サービスが、現実のものとなり、やがて「当たり前」になり、それを土壌としてサービスやコンテンツやインフラに対する次のニーズが生まれ、それを満たすために本当のイノベーティブなサービスが出てくるのではないかという気がする。
それが成長力というものなのではないかと思う。成長力というものは、マスメディアによるマーケティングという名の洗脳で作り出されたニーズからではなく、規制をはずし、自由度を高め、技術的な「今できること」を広めて、普通の人の欲張り心、スケベ心を引き出し、同時にクリエイティブな人を発奮させることから生まれてくるのではないだろうか。
テレビをネットで見ることそれ自体が何かを変えるわけではないかもしれない。しかし、「テレビをネットで見られないこと」は「後ろ向きの日本」の一つの象徴であるような気がするのだ。