「パラダイス鎖国」は芯の通った良書

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)

海部 美知「パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本」を買ってきた。まだ前半を読み終えたところだが、後半の第3章以降は流れが変わるみたいなので、とりあえず前半部分について感想を書く。
著者のブログは愛読しているが、本書はブログの内容をより深く掘り下げてあり、単にブログの内容をまとめた本ではない。前半は日本がパラダイス鎖国に至る過程の検証。テーマは一貫しており、議論の流れにもブレがない。読み応えのある内容だ。よく言われる、携帯電話の国際競争力の低下についても、短絡的な「日本の規格が独自仕様だったから」という話ではなく、メーカーがその時その時で最良の選択をしていったつもりだったのが、結果的に世界に置いていかれた形になった、という流れが分かりやすく書かれていて説得力がある。
願わくば、日本が引きこもっていくその同じ過程で、世界の国々が大きく変化していく過程も対比して書かれていれば、彼我の差がもっと明確になったかもしれない。この点で、ちょっと思い出したのが、高城剛「「ひきこもり国家」日本―なぜ日本はグローバル化の波に乗り遅れたのか」だ。タイトルを見ればわかる通り、この本も問題意識は「パラダイス鎖国」に近い。ただ、内容は「日本が引きこもっている間に世界はこんなに変わっている!」というトーンになっていて、変わりゆく世界を語ることで変われない日本を浮き彫りにしている。
高城剛という人は、語る内容があまり論理的でなかったりするし、鵜呑みにしないほうがいいのだが、この本は「ウェブ進化論」ならぬ「リアルワールド進化論」だと私は思っている。「パラダイス鎖国」と合わせて読むという前提であれば、この本もお勧め。
もちろん「パラダイス鎖国」は絶対のお勧め。最近官庁では「国際競争力の向上」をお題目にした政策が多いが、本書では国際競争力の評価指標において「共通して政府部門が最大の問題とみられている」と指摘している。規制や産業振興策や新法をひねくりまわす前に、政府の効率化をどう進めるか、真剣に検討することはできないものか。