iモードのない2008年

ドコモの夏野剛さんが4月末で退職?という新聞記事が出ていた。公式に発表された話ではないようだが、それなりの裏づけがあって記事になったのだろう。

ドコモ、夏野執行役員が退社へ・「iモード」の生みの親

最近のドコモはオープン化に向かってひた走っているように見えるから、もはやiモードの時代ではない、ということなのかもしれない。私も、ユーザはiモードをスルーしてインターネットへ向かうのではないか…という話を以下で書いた。
2007年を振り返る(1)ガラパゴス・ケータイはiPhoneに勝てるか - 雲の向こう側

実はiモードそのものからドコモが得ている収益は、それほど大きくはないはずだ。ここで、「iモードそのもの」とは「公式メニュー」というサービスによって成り立っているビジネスのことを言っている。それ以外のサービス(勝手サイトへのアクセスやメール機能など)は単なる通信サービス(ISP的サービス)であり、iモードそのものがあってもなくてもあまり関係は無い。
携帯電話は、基地局を建設しまくって通信料金で回収する設備産業だ。パケット料とは通信料金である。「iモードそのもの」からの収入は、月額のiモード使用料と公式メニューの料金代行徴収手数料だから、通信料金に比べれば小さい。私個人が自分の携帯に払っている額を考えてみても、基本料は別としてパケット料金がパケ・ホーダイで4千円払っているのに対し、iモードそのものにはiモード使用料300円、登録している有料サービスが300円×2で600円(そのほとんどは最終的にドコモではなくサービス提供者へ渡る)、iチャネルの利用料が150円で、合わせて千円少々だ。
だがこのエントリでは、だからiモードって実は大したことなかった…という話をしたいのではない。iモードが世の中の経済に与えたインパクトはものすごく大きかったが、それはドコモの収入という基準では計れないものだということだ。
iモードのすごさを考えるために、「もしiモードが生まれていなかったら」というのをやってみたい。私が考えたものを以下に挙げる。
まずは携帯電話そのものについて。

  1. Compact HTMLと携帯電話向けブラウザはAccess社が考えたものだったと思うが、iモードが無ければ世に出るのはかなわなかったかもしれない。世界の潮流はWAPだったから、日本もWAPによるサービスが始まり、そして世界と同じく、あまりの使いにくさにユーザから見放されたことだろう。
  2. 携帯電話そのものは、iモード以前から若者の憧れだったから、普及はiモード無しでも進んだと思われる。だが、携帯のデザインはより電話に近い、ディスプレイの小さいものが中心だっただろう。今の主流の二つ折りのスタイルは、日の目を見なかったかもしれない。
  3. ドコモがISPの役割を担って携帯電話でインターネットへアクセスする、という使い方は遅かれ早かれ登場したに違いない。端末はフルブラウザを搭載する必要があり、携帯電話ではなくWindows Mobileによるスマートフォンが主流になったかもしれない。その場合、今のように老若男女が使えるものにはならず、PCユーザ層とかなり近いユーザ層だけが使うものになっただろう。
  4. 普通の携帯電話で使えるのはショートメールのみになったかもしれない。メール機能もiモード以前から人気だったが、インターネット形式のメールは使えなかった。インターネット形式のメールは「携帯電話内蔵のPOPクライアント型メーラ」からの利用になっただろう。しかし、POPクライアントを内蔵できるのは(ややマニア向けの)スマートフォンだけになったかもしれない。
  5. 写メールは、おそらく誕生しただろう。
  6. 3Gの普及はもっと遅くなっただろう。大多数の携帯電話ユーザがメールと通話しか使わないのであれば、通信速度は大して重要ではない。もしかしたら写メールの普及がメールのファイルサイズを増加させ、3Gの普及を後押しすることになったかもしれない。

次に、世の中について。

  1. 着メロ市場は生まれただろうが、ずっと小規模に始まったことだろう。壁紙サービスは誕生しなかったかもしれない。
  2. 着うたフルの市場は高速な3G網が必要だから、3G網の普及が遅れたとすれば着うたフルの誕生もずっと遅れただろう。レコード会社は音楽CD市場の落ち込みを補う収入源が無く、iTunes Storeにひれ伏し、日本のiTunes Storeの開始が早まったかもしれないし、P2Pファイル共有に対してもっと強硬な手段(ダウンロード違法化を急がせるとか)に出ていたかもしれない。
  3. ケータイ小説は生まれなかっただろう。「電車男」のようなネット小説が、代わりに出版界を席巻していたかもしれない。
  4. 10代の子供達も、インターネットにアクセスするためにはPCを利用しただろう。そうすると、もしかしたら今よりもPCが普及していたかもしれない。
  5. 携帯電話の基本料金は安くなったことだろう。スマートフォンでない携帯電話は機能が低く、その代わり安くなり、通信事業者も端末代金を月々の料金で回収する必要が無かったはずだ。
  6. 電車通勤のひまつぶしメディアは新聞と週刊誌のままで、これらはもっと売れていただろう。
  7. ドワンゴは存在せず、ニコニコ動画は生まれていなかったかもしれない。

まだたくさんあると思うので、あれこれ考えてみてほしい。。最近、ガラパゴスとか何とか言って、マスメディアが日本の携帯電話を悪者にしたがっているような気がするのだが、iモードが生まれていなかったら日本が今よりつまらない国だったことは確かだと思う。まあ、一部の業界は今よりも幸せでいられた可能性もあるが…。

iモード事件

iモード事件

ケータイの未来

ケータイの未来